取引先から「顧客データを扱うAIの処理は国内または特定の地域で完結させてほしい」と求められ、Claude APIがどこで推論を動かしているのか説明できない。中小企業のAI活用で増えている場面です。
Claude APIには、推論を実行する地域を制御する設定があります。リクエストごとの指定と、ワークスペース全体で固定する設定の2段構えです。本記事では公式ドキュメントに基づき、設定の意味、料金への影響、制約を整理します。ZDR(ゼロデータ保持)や保存期間はClaude APIのデータ保持とZDR、ワークスペースの基本設計はClaude APIワークスペース設計を参照してください。
inference_geoとワークスペースgeoは何が違うのか
データレジデンシーは2つの独立した設定で決まります。推論を実行する場所を決める inference geo と、保存先を決める workspace geo です。
公式ドキュメントでは、次の2つが独立した設定として説明されています。
| 設定 | 制御する対象 | 設定場所 |
|---|---|---|
| inference geo | モデル推論が実行される地域 | APIの inference_geo パラメータ、またはワークスペースの既定値 |
| workspace geo | 保存データの置き場所と、画像変換・コード実行などエンドポイント処理の場所 | ワークスペース作成時(Console) |
混同しやすい点は、inference_geo を us にしても、それだけで保存先が決まるわけではないことです。保存と推論は別々に統制します。
現時点で選べる値は限られます。inference_geo は "global" と "us" の2つだけ、workspace geo も "us" のみです。日本国内に限定する選択肢は、公式ドキュメントの現行記載にはありません。国内処理が契約上の必須条件なら、Claude APIの設定だけでは満たせない可能性があります。要件を先に確認してください。
inference_geoをus指定すると何が変わるのか
inference_geoを"us"にすると推論は米国内のインフラだけで実行され、全トークン区分が標準料金の1.1倍になります。
POST /v1/messages に inference_geo を追加するだけで指定できます。
``python``
response = client.messages.create(
model="claude-opus-5-5",
max_tokens=1024,
inference_geo="us",
messages=[{"role": "user", "content": "この文書の要点をまとめてください。"}],
)
print(response.usage.inference_geo) # 実際に推論が動いた地域
レスポンスの usage.inference_geo に実際の実行地域が返るため、ログに残せば「指定どおりに処理された」ことを後から示せます。
押さえておく点は次のとおりです。
- 既定は
"global"で、性能と可用性を優先してどの地域でも実行されます。標準料金です "us"は入力・出力トークン、キャッシュ書き込み、キャッシュ読み取りの全区分で1.1倍です- 対応は Claude 4.6 以降のモデルです。それ以前のモデル(Opus 4.5、Haiku 4.5 など)で指定すると400エラーになります
- Batch API でも使え、バッチ内のリクエストごとに値を指定できます
- レート制限は地域をまたいで共有されます
1.1倍の影響は規模で変わります。たとえば月の利用料が10万円なら、全リクエストを "us" にした場合の目安は11万円です。ただし実際の増分は、"us" を指定したトークン量だけに掛かります。
ワークスペース単位で地域を固定するにはどうするか
allowed_inference_geosで許可する地域を絞り、default_inference_geoで未指定時の既定値を決めると、キーを使う全員に同じ方針を強制できます。
リクエストごとの指定は書き忘れが起こります。地域の方針が決まっているなら、ワークスペース側で固定するほうが確実です。
allowed_inference_geos: ワークスペースが使える地域を制限します。許可外のinference_geoを指定したリクエストはエラーになりますdefault_inference_geo:inference_geoを省略したときのフォールバックです。個別リクエストで上書きできます
どちらも Console または Admin API の data_residency フィールドから設定できます。以前に「グローバルルーティングのオプトアウト」を設定していた組織は、allowed_inference_geos: ["us"] と default_inference_geo: "us" に自動移行されています。コード変更は不要です。
中小企業向けの運用案を示します。
- 個人情報や取引先の機密を扱う業務用に、専用のワークスペースを作る(
allowedを["us"]に限定) - 社内の検証用など制約のない用途は別ワークスペースに分け、既定の
globalのまま使う - 用途ごとにキーをワークスペースに固定し、誤って制限のないワークスペースを使わないようにする
- 応答の
anthropic-workspace-idヘッダーとusage.inference_geoを記録し、どのワークスペースで・どの地域で処理されたかを突き合わせる
ワークスペースごとの月額上限(Spend limits)も併用できます。us 固定のワークスペースは単価が1.1倍になるため、上限を別に置くと予算管理がしやすくなります。キーの種類と失効の設計はClaude APIキーの種類と漏えい時の初動手順も参考にしてください。
他のクラウド経由で使うと設定はどうなるか
Bedrock や Google Cloud 経由では
inference_geoは使えず、地域はエンドポイントURLや推論プロファイルで決まります。
公式ドキュメントによると、inference_geo が使えるのは Claude API(直接契約)と Claude Platform on AWS です。ほかのプラットフォームでは扱いが異なります。
- Amazon Bedrock と Google Cloud: 推論地域はエンドポイントURLまたは推論プロファイルで決まり、
inference_geoは適用されません。料金もプラットフォーム側の独自の体系です - Claude in Microsoft Foundry:
inference_geoは適用されません。Azure ホストのデプロイで US Data Zone Standard を選ぶと、米国内に限定でき、同じ1.1倍の係数が掛かります - OpenAI SDK 互換エンドポイント:
inference_geoは使えません
すでにクラウド基盤を決めている場合は、その基盤側の地域指定の仕組みを使います。どのルートを選ぶかは、マネージドかセルフホストかの判断とあわせて検討してください。規模が大きく、VPC内デプロイや厳格な規制対応が必要になる場合は、大企業向けのVPC内LLMデプロイとデータレジデンシーの設計が出発点になります。
参考
まとめ
処理地域の統制は、取引先要件の確認、ワークスペース分離、実行地域のログ化の3手順で足ります。
inference_geo の指定は1行で済みますが、価格は1.1倍、選べる地域は現状 us と global の2つ、対応は Claude 4.6 以降のモデルに限られます。設定の手間よりも、取引先が求める地域要件を満たせるかの確認が先です。
Kuuでは、中小企業のAI活用を導入から定着まで伴走するAI Opsを提供しています。ワークスペースの分け方やデータの取り扱い方針の整理が必要でしたら、ご相談ください。
